のどぐろ| ノドグロ(喉黒)| アカムツ(赤鯥)

当ブログでは「のどぐろ」または「ノドグロ」と書いていますが、のどぐろの標準和名は「アカムツ」(赤鯥)です。

赤いムツ(鯥)というわけです

のどぐろ・アカムツ 『むつ』って何?【魚名のはなし】

のどぐろ(= アカムツ)のすがたかたちはムツ(鯥)に似てはいますが、実はのどぐろ(アカムツ)はムツとは別の種類です。

クロムツ(黒鯥)

●のどぐろ(赤鯥)は→スズキ科・アカムツ属
●クロムツ(黒鯥)→ムツ科・ムツ属

ほかにも名前に「ムツ」がつく魚はいくつかあります。それらの共通点は、白身の魚でそして脂がのっていることです。「ムツゴロウ」のムツもこの意だそうです。

だいぶ以前になりますが「銀ムツ」という名で売られていた「メロ」という輸入魚もありました。この魚も脂がのっていることで人気がありましたが、いまは「銀ムツ」という名はJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)により使えないようです。正式な和名は「マジェランアイナメ」ですがマジェランアイナメでは売れそうにもありませんね。それに価格の高騰で輸入量が減っていると聞いています。

ムツ(鯥)には「ろくのうお」(六の魚)という別名もあります。仙台あたりの地方名です。伊達藩主・陸奥守(むつのかみ)に憚ってムツと呼ばずに「ロク」といったのだとか。六つ(むつ)は六(ろく)ですから。余談でした。

元来「ムツ」というのは脂っこいという意味で、「ムツッコイ」などという方言があるのだそうです。(ムツッコイ、ムツコイ、ムツゴイなど、四国・中国地方の一部にこの方言があるようです。)

むつこい (愛媛の方言) の意味  《全国方言辞典》click

むつこい (愛媛の方言) の意味・むつこい (愛媛の方言) の解説

脂っこい。味がしつこい。

ちーとむつこいかなー、ゆー差しとおみや
(ちょっと味が濃すぎるかな、湯を差してごらん)
※ 東予では「むつごい」。

出典:goo方言辞典 (三省堂刊行の書籍版『全国方言辞典』)
https://dictionary.goo.ne.jp/leaf/dialect/3027/m0u/

確かにのどぐろ(アカムツ)は脂がのった魚でありますが、しつこさや脂っこさよりもその独特のうま味が上品で洗練された味わいとして好評を博しています。「白身のトロ」と称されるのもむべなるかな、といったところです。

 

喉が黒いからノドグロ(喉黒)なのだけれど…

「ノドグロ」という名は喉が黒いから」いまやどなたもご存じなのですが、口の中が黒い魚はほかにもたくさんあります。例えばクロムツ(黒鯥)もマアジ(真鯵)もそうです。アジを「のどぐろ」と呼ぶ地方もあるくらいです。

アカムツをノドグロと呼ぶのは全国的になったようですが、もともとは日本海側で呼ばれていた名前です。有名なプロテニスプレーヤーが2014年全米オープンで準優勝し、そのインタビューの折に、食べたいものとして「のどぐろ」と答えて以来さらに知られるようになりましたが、あの方も確か日本海島根のご出身でした。


のどぐろの英語名はBlackthroat seaperch。やはり、のどぐろ(黒い喉 = Black-throat )ということですね。sea perchはスズキ(鱸)の仲間などを指すのでしょう。とまれ「ノドグロ」も「アカムツ」もはたまた”Blackthroat seaperch”も見た目からの名前ということですね。

のどぐろの別名

魚の名前は地方によってさまざまで、同じ名前でも全く別の魚だったりします。例えば、高知ではのどぐろを「キンメ」と呼ぶことがあるようですが、「キンメ」といえば当然「キンメダイ」(「フウセンキンメ」も含む)のことと関東(豊洲市場や千葉、神奈川)では思います。ところが地方によっては「キントキダイ」「台湾クルマダイ」「南洋金目」を「キンメ」と呼ぶところもあるようです。

ノドグロは島根県の浜田あたりでは(特に18cm以下の小ぶりのものを)「メキン」「 メッキン」と呼ぶそうです。熊本で「オオメ」「オオメダイ」とという名がありました。

富山では「ぎょしん」「ぎょうしん」「ぎょすん」「ぎょうすん」とも呼ばれることになっていますが、ちかごろはあまり聞くことはありません。いずれも漢字は「魚神」です。この漢字なら飲食店や旅館の料理名などで何度か見かけました。漢字では「凝神」と書くという説も聞いたことがありますが、たぶん当て字でしょう。余談ですが魚神を一字で書くとノドグロとは全き離れて「ハタハタ」(鰰)です。

また富山では「ダンジュウロウ」とも呼ばれることがあるそうです。歌舞伎役者の市川團十郎は目が大きかったそうでそれに因んでのことらしいのですが、何代目の團十郎なのかは知りません。

最近はその名が全国にとどろく高級魚としての存在感も高まり、地元での魚名で呼ばれることも少なく、ほぼ「ノドグロ」か「アカムツ」で統一されてきているように思います。

のどぐろの別名 【まとめと覚え書き】

ここまでのまとめと少しの付けたしを掲げておきます。

・ノドグロの標準和名は「アカムツ」漢字は赤鯥(スズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科
・ムツ(鯥)に似た形態で赤いからアカムツというが、ムツ(スズキ目ムツ科)とは別種
・ムツとは「ムツッコイ」(脂っこい)の意味。ムツの名がつく魚は脂があることで共通。
・のどぐろは喉が黒いからその名がある。
・喉が黒い魚はアジ(鯵)などほかにもある。(アジをのどぐろと呼ぶ地方もあった)
・英語名は”blackthroat seaperch” 黒い喉の鱸(スズキ)。「喉黒(ノドグロ)」と同じ発想の名づけ。
・富山の魚神(ギョシン、ギョスン)や島根の「メキン」(ノドグロの幼魚)など数々の地方名があったが今は標準名の「アカムツ」と俗称としての「ノドグロ」に統一されつつある。
つけたし
・「のどぐろ」という呼び名は50年以上前から山陰地方で使われ始めたという説がネット上にはあるが、すでに江戸時代に新潟で「のどぐろ」と呼ばれていた記録がある
「のどぐろ」の別名を考えていた奉行が江戸時代にいた。江戸時代後期新潟初代奉行の川村修就。
・そののどぐろ別名案は「月夜鯛」とというものであった。

→「初代新潟奉行川村修就文書」新潟市郷土資料館所蔵 
https://opac.niigatacitylib.jp/pathfinder/kyodo/pdf/kyodo-12.pdf
のどぐろの別名「月夜鯛」をご存知でしょうか。のどぐろの別名『月夜鯛』とは(当サイト内・別ページ)
新潟のどぐろ ブランド?「月夜鯛」(当サイト内・別ページ)

のどぐろ 形態 生態

ノドグロの大きいものは体長が40cm~50cmにもなります。50cm上の大きなものにはめったにお目にかかれませんが、通常は40cm以下で1kg前後以下といったところでしょう

メス・オス(雌・雄)で寿命が異なります。メスは約10年、オスは約5年ほどです。メスはオスの2倍も長生きということです。40~50㎝になるのには10年かかりるといわれていますから、大きなものはメスばかりということになります。成長の速度もメスのほうがやや早く大きくなっていくようです。

ノドグロのウロコは櫛鱗(しつりん)

櫛鱗(しつりん)というウロコ

写真でご覧のように側偏した楕円形で、体色は赤紅色ですが腹側は銀色ぽくなっています。櫛鱗(しつりん)というウロコを帯びています。櫛鱗はウロコの後部の露出部がざらざらとした小さなトゲ状になっています。スズキ、マダイなどのウロコも同じです。

水深100~200mあたりの底層に棲み、小さな群れをつくっています。回遊魚ではありませんから広く移動することはありません。成長に伴い深い場所への移動をします。幼魚のうちは水深100m辺りですが、大きくなるにつれ200mの深い場所へと次第に移動していきます。

小さいけれどけっこう鋭い歯を持っていて、エビ、カニなどの甲殻類を好み小魚やイカ類も食べます。下あごのほうが上あごよりわずかに突き出ています。

名はアカムツですが前述したように実際はやや朱色に近い赤紅色で、腹側は銀白色に近くなっています。外見はともかくその身は白く脂がのっています。「白身のトロ」と呼ばれる所以です。刺身はもちろん煮付け、焼き物、しゃぶしゃぶ…などどのような調理にもあいます。まさに「ゆく と して可ならざるはなし」すばらしい魚です。

のどぐろ【生息地とブランドのどぐろ】

ノドグロの生息地は主に太平洋西部。日本近海だけではなく東南アジアやオーストラリアあたりにまで分布しているそうです。日本近海では北海道以南で広く生息しています。なかでも新潟から島根県、また対馬にいたる日本海の水域に多く分布しています。

島根県浜田市の「どんちっちのどぐろ」や長崎県対馬の「紅瞳(べにひとみ)」などブランド化されたノドグロがあります

どんちっち のどぐろ|浜田市

どんちっちのどぐろ」は島根県浜田市産物ブランド化戦略会議事務局が定めた『どんちっち三魚』(どんちっちさんぎょ)という3つのブランド魚の一つです。残り2つは「どんちっちあじ」と「どんちっちかれい」。

浜田市の「どんちっちのどぐろ」は8月から翌年5月の間*に漁獲された、80g以上のものを「どんちっちのどぐろ」として認定しています。「どんちっち」とは、地元の伝統芸能「石見神楽」の囃子(はやし)を表現する幼児言葉、だそうです。(*6月1日から8月15日まで資源保護のため休漁)

のどぐろ 紅瞳(べにひとみ)|対馬市

長崎県対馬市・上県漁業協同組合の「紅瞳(べにひとみ)」は、平成17年度から流通しているブランド魚。通称「地獄縄」という「はえ縄漁」で獲ります。釣り糸にいくつかの針をつけた仕掛けです。投入する際に身体の一部に針が引っかかって海中に引き込まれないよう漁師は緊張し続ける過酷な漁だとか。「地獄縄」のいわれです。

豊洲市場でまだ「どんちっちのどぐろ」を見たことはありませんが、「紅瞳」は時おり並んでいます。外国のものでは韓国済州島のノドグロも見かけます。

のどぐろ の旬

ノドグロの旬は秋から冬、9月ごろから12月といわれていますか地方により少しずつ異なるようです。いろいろな説がありますが、参考までに掲げておきます。

新潟での旬は7月から9月ごろだといわれます。この期間は産卵期に合致します。産卵直前の栄養を蓄えたものが旬だということらしい。なかには子持のノドグロの旨さは外せないという人もいます。産卵期は卵に栄養を取られて味が落ちる魚も少なくはありませんが、産卵のために栄養を蓄えたノドグロは味が増すという説さえあります。

石川県能登では11月から2月が旬とされているようです。寒い時期には脂が蓄えられているということから。

島根など山陰では旬は9月から12月といわれています。先ほど紹介しました「どんちっちのどぐろ」もこの時期の大きなものが珍重されます。

富山では通年おいしい魚ということになっています。ですから旬は通年です。

いずれにしましても脂がのっている時期のものが一般的には旬というわけです。ところが、のどぐろの脂ののり具合は季節の変動に左右されることは少ないという研究結果があります。(↓次の項へ)

のどぐろ 脂ののり(脂質含有量)

ノドグロの脂ののり方についてちょっと興味深い研究がありますのでご紹介ます。
2007年『島根県水産技術センター研究報告』の中にある島根県周辺海域で漁獲されたアカムツ総脂質含有量の季節変化と個体差』という研究です。

https://bit.ly/3ISFiMV(←のPDF 19ページ目から)

この研究報告では、ノドグロの脂について次のように記されています。(抜粋)

ノドグロの脂について
ノドグロの脂の割合は「大型魚の割合が小型魚より高い

ノドグロの脂は「季節的な変動よりも個体差の方が大きく,特に200g前後の個体で顕著なことなどが明らか

ノドグロの「形態や色などの外部情報から“脂の乗り”の善し悪しを判断することが難しいことを示している

さらにかいつまんで申しますと、次のようになるでしょう。

のどぐろは
大きいほうが脂がのっている
脂ののりは季節よりも個体差だ。
脂ののりは色形などの見た目では判断できない。

ということは、各地域の旬にとらわれずとも、(どこかには)旨いのどぐろはある、ということになりますね。w

のどぐろ カロリーと栄養

ノドグロの身上は上品な白身でありながら脂がのった身にあるといえましょう。まさに「白身のトロ」でありますが熱量は100gあたりで185kcal、マグロのトロの344kcalに比べるとかなり低めです。ブリは257kcalですからノドグロはそれよりも低い数値。

出典:食品のカロリーの一覧表 http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/calorie.html

良質なたんぱく質をはじめ、生活習慣病の予防や脳の発育等に効果があるといわれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(イコサペンタエン酸)という不飽和脂肪酸を多く含み、カリウム,カルシウム,ビタミンA,B2なども含まれているそうです。

栄養食品として味わうということはありませんが、これだけおいしい魚がカラダに悪かろうはずはありません、というのが筆者の実感です。

のどぐろ 養殖・栽培漁業

漁獲の多寡に差はあるものの、ほぼ1年を通じて獲れる地域があるノドグロです。ところが環境の変化に伴うストレスなどには弱く、生態に不明な点も少なくないということで、「養殖」や「栽培漁業」には難しい魚です。

富山県水産研究所は2011年からノドグロの研究をつづけています。人工授精による稚魚の育成に成功し、2016年からは育てた稚魚の放流をしています。その成果は着々と進んでいるようです。2016年に人工授精で生まれ、2017年2月に富山市沖で放流された稚魚が9カ月後の11月に生存しているのが発見されています。放流された時の5cm程度の大きさからさらに5㎝ほど大きくなっており順調な成長だということです。

受精卵から育てた成魚はほぼオス(雄)ばかりで極端にメス(雌)が少ないそうです。雄雌の偏りをなくす飼育方法を確立しなければならないなど、人工授精から放流を通して漁獲するまでにはさらなる研究が必要だということです。

研究が進めば、近い将来には栽培漁業によるのどぐろ(アカムツ)を食すことができるようになりそうです。

富山)ノドグロの稚魚を放流 県水産研究所
富山県農林水産総合技術センター水産研究所(富山県滑川市)は12日、人工授精で育てた高級魚ノドグロ(標準和名アカムツ)の稚魚約1万匹を富山市沖に放流した。体長5~6センチの稚魚は、4年後には漁獲サイズの体長約25センチにまで成長する見通し。

出典:朝日新聞デジタル 2020年2月13日 https://www.asahi.com/articles/ASN2D6SM3N2DPUZB001.html
新潟県糸魚川市の新潟県立海洋高校は2018年10月に近畿大学と「アカムツ等の養殖及び種苗生産に関する高大連携協定」を締結して、のどぐろ(アカムツ)の人工授精や養殖の研究を行っています。翌2019年10月にはノドグロの人工授精および人工ふ化飼育の成功を発表しています。今後は日本海への放流を目指し、のどぐろ栽培漁業のための稚魚育成に取り組んでいるそうです。

出典:高校生が高級魚ノドグロの人工授精・人工ふ化に成功(海洋高校)/糸魚川市
https://www.city.itoigawa.lg.jp/item/23651.htm

のどぐろ【養殖と栽培漁業のちがい】

養殖漁業は魚が子供のころから出荷できるサイズになるまで、水槽などで育てます。その間ずっと人の管理下で育てられるわけです。

栽培漁業は卵から稚魚になるまでを人間が育てます。外敵から身を守ることができると思われる大きさになったら海へ放流します。それらが成長してから漁獲するという流れです。●参考:農林水産省https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0306/04.html

完全養殖と畜養(ちくよう)
養殖には「完全養殖」と「畜養(ちくよう)」の2種類あります。

卵から孵化された稚魚が成魚になり、その制御がまた卵を産んでというサイクルが確立されたものが「完全養殖」と呼ばれています。
・マダイ(真鯛)・ギンザケ(銀鮭)・トラフグ(虎河豚)など多数あります

海から獲ってきた稚魚を水槽などで出荷できる大っきさになるまで育てるのが「畜養(ちくよう)」です。
・ウナギ(鰻)・アサリ(浅利)・ハマグリ(蛤)・ブリ(鰤)などは畜養です。

前述しましたようにのどぐろの放流は実験的には始まっています。水深100m辺りから200mの深い場所に移動していく魚で、甲殻類やイカなども好んで食べます。養殖などには向かない魚ですから、栽培漁業の成功に至るまでは困難がつづきまだしばらくはかかるものと思われます。近畿大学が2002年に完全養殖に成功した「近大マグロ」(登録商標)は30年以上の歳月を要したと聞いています。栽培漁業、養殖ののどぐろを愉しみに待ちましょう。

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