ご家庭で蒸し物をすることが少なくなってきているようです。料理屋で出す凝った蒸し物ではなく、酒蒸しやちり蒸しなら下ごしらえにの手間も少なくて済みます。焼き魚や煮付けのように焦がす心配も、形がくずれることもなく失敗の少ない調理法といえるでしょう。蒸し物料理に慣れると応用も愉しく料理の幅が格段に広くなります。
のどぐろを蒸して「ちり酢」(=ポン酢醤油)で食べる「のどぐろ ちり蒸し」をご紹介します。
魚に高温の熱を加えると身がちりちりにはぜます。これが「ちり」という語の由来だそうです。鍋ならちり鍋、蒸し物ならちり蒸しとなります。ちりの材料は新鮮で旨味のある白身の魚や貝類を使います。
遠江国は三河国(みかわのくに)に接していますから、身と皮(みかわ/三河)がついた魚を使うというしゃれです。河豚皮の内側を「遠江(とおとうみ)」といいますでしょ。あれと同工の謂いです。
のどぐろのちり蒸し【作り方】
のどぐろの塩焼きと煮付けは1本の姿のまま調理しましたが、今回のちり蒸しは1本ののどぐろで2人分とし3枚におろして使うことにします。骨がもったいないという方は2枚におろして片方は骨付きにします。
① のどぐろはウロコ、エラ、内蔵を取り除き、流水で水洗いし、ふき取ったら、3枚(または2枚)におろします。のどぐろに薄く振り塩をし30分ほどおき、熱湯に数秒くぐらせ氷水にとったら、拭いておきます。大きいのどぐろでしたら、さらに半分の切り身にし、1人分は2切れとします。 ② 付け合わせに野菜を用意します。今回は長ネギ、椎茸、春菊。茹でて冷水にとり拭いておきます。長ネギは斜めの切り目を入れておきましょう。秋なら湿地や舞茸など茸類もいいですね。豆腐は必須という方もいます。 ③ つぎにバットに昆布を敷きのどぐろを載せたら、日本酒を振ります。これを、沸騰して蒸気が上がっている蒸し器に入れ蒸しあげます。おおよそ7分から10分ぐらいで蒸し上がると思います。※必ず蒸気が上がってから入れるようにします。 ④ 下茹でした付け合わせの野菜はのどぐろより短い時間で蒸しあがりますから、先にのどぐろを蒸しはじめて途中でバットを一旦取り出し、野菜を並べ蒸し器に戻して蒸すようにします。 ⑤ 蒸しあがりましたら、器に盛替え天に針柚子を盛ります。紅葉おろし、アサツキの小口切り、を添えポン酢醤油でいただきます。※器に盛ったら、熱い吸地出汁を少しはるという調理法もあります。 ●バットに並べて蒸し、後で器に盛り替えましたが、1人分ずつ器に昆布を敷き、材料を並べた器ごと蒸すやり方もあります。器が熱くなりますので注意して下さい。 ●紅葉おろしは、皮をむいた大根を輪切りにし、割箸などで穴をあけそこにタネを除いた唐辛子を差し込んでおろし金ですり下ろします。あるいは、輪切りの大根の皮をむき半月切り、その2枚の間にタネ抜きの赤唐辛子を挟んですりおろします。これを軽く絞って使います。ポン酢醤油(ちり酢・ポン酢)
「ポン酢醤油」は柑橘類の絞り汁と醤油をあわせたものです。ちり鍋やちり蒸しをいただく際に使われるので「ちり酢」ともいいます。通常的に「ポン酢」と略して呼ばれることが多いようです。「ポンス」はオランダ語の “pons” (ポンス)が語源で、「酢」という漢字を充てたのだとか。
ポン酢醤油は材料を合わせて10日間ほど寝かせてから、漉して使います。何日も寝かさずに、火入れをして冷ましたらすぐに使えるポン酢もご紹介しておきます。
ポン酢醤油(ちり酢)基本の作り方
【材料】
●柑橘類果汁:6、醤油4、みりん1.5、酒1、米酢1、削り節、昆布
みりんと酒は煮切ってアルコールを飛ばします。材料全部を入れ10日間~経ちましたら漉して使います。柑橘類は、基本は橙(ダイダイ)ですが柚子、カボス、酢橘、夏ミカン、オレンジ、レモンなどから2、3種混ぜることもあります。橙は10月ごろから出はじめるので、絞って保存しておきます。苦みがでないよう種をつぶさず軽く絞ります。絞った果汁の瓶詰も売られています。
すぐに使えるポン酢醤油の作り方
【材料】
●柑橘類の果汁1.5、醤油1、酒1、みりん1.5、削り節、昆布
柑橘類の果汁を除き、残り全部を合わせてひと煮立ち、漉して冷めたら柑橘類の果汁を混ぜる。酸味が強いほうがお好みなら酢を利かせてもよいでしょう。太白胡麻油などを落とすとまろやかなポン酢しょうゆになります、
●酢の強さの好みは結構わかれるようです。ポン酢しょうゆの割合は店や料理人によって様々です。ポン酢しょうゆは作っておくと重宝します。酢が濃すぎるようなら、煮切り酒や出汁で割って使います。(割ポン酢)出汁やサラダ油などと合わせてドレッシングとしても使えます。●のどぐろのちり蒸しをご紹介しましたが、蒸し物は基本的には途中で味付けはしません。蒸気による過熱ですからアクや雑味が抜けませんので、霜降りをしておくことは必須です。蒸し物料理に慣れるとさまざまな応用料理を愉しめます。
おなじみの茶碗蒸し、空也蒸し、小田巻蒸し、南禅寺蒸し。これらはぜんぶ卵を使った蒸し物です。
材料で分けると信州蒸し(そば)、かぶら蒸し(蕪)、道明寺蒸し(道明寺粉)、薯蕷蒸し(じょうよむし・山芋)、翁蒸し(昆布・大根千切り)、れんこん蒸しなど。
蒸す形態では土瓶蒸し、骨蒸し(こつむし・魚の頭や骨)、桜蒸し(桜の葉で巻く)、芝蒸し(材料を繊切し芝に見立て)、かしわ蒸し(柏の葉で巻く)、朧蒸し(おぼろむし・おぼろ月に見立て)、深山蒸し(秋の山に見立)、博多蒸し(重ね蒸し。博多帯の織柄に見立、)、柚子釜蒸し(柚を釜に見立て)。まだまだありそうです。
調味では酒蒸し、みそ蒸し、塩蒸しなど。