高級魚ののどぐろ(アカムツ)を干物にするとは贅沢なことですが、塩焼とはまた違う愉しみでもあります。

一夜干し

干物にはみりん干しやクサヤのように調味を使ったものもありますが、のどぐろはやはり塩干しでしょう。干し具合というか乾燥の程度によって生干し、風干し、固干しなどと分けて呼びます。

塩干しは塩と天日と風によって水分が抜け乾いていきます。塩とお陽さまと風を利用して干すのが一般的な干物、天日干しです。このあんばいが微妙で、干物づくりの技ともいえるところです。一夜干しは天日には晒さずに塩と風だけを利用して一晩干します。もっと短い時間なら半夜干しです。


一夜干しは天日は利用しませんからゆっくりと乾いていきます。温度が高い季節や場所では室内や冷蔵庫内で干すなどの工夫が必要です。(後述→一夜干しの干し方
しっかりと乾燥させずに半生状態の半夜干し・一夜干しは、ノドグロの滋味を活かした干物として珍重されています。

のどぐろ【一夜干し・干物】の作り方

のどぐろを開く際に背開きか腹開きかどちらにしますか。現在売られている干物は背開きが多いようですが、昔は「関東の腹開き関西の背開き」(ウナギは逆です)の伝統があったそうです。

のどぐろは腹開き背開き、それとも片袖開き

小さめののどぐろは、片袖開きが良いでしょう。カマスやサンマの干物などでよく見かける頭部は割らずに身の部分だけを開くあのやり方です。この場合は自ずと背開きということになります。(腹開きでもできますが見た目で背開き)

実際のところ、のどぐろの干物・一夜干しの醍醐味としてはある程度の大きさ以上のものを使いたいですね。大きいのどぐろは腹開き背開きどちらでもよいと思います。

腹開き

刺身用や塩焼き用に買ったのどぐろが、すでにエラや内臓を取ってしまってあるのなら腹開きですね。

エラも内蔵もあるのどぐろを腹開きにするのでしたら次の手順で行います。ウロコを取り腹に包丁を入れエラや内臓を取り流水で洗う、ここまでは塩焼きの下ごしらえでご説明したこととおなじです。のどぐろのカマのつけ根(喉もと)から背骨に沿って腹側から丁寧に切り開きます。つぎに頭部を割ります。

背開き

のどぐろの頭の根本からを背びれの側から刃先を入れ、背骨に沿って尾の手前まで切り開きます。エラやはらわたを取り除きます。頭を背側から割ります。塩水で洗います。

のどぐろ干物・一夜干し【振り塩と立て塩】

さて開いたのどぐろは塩を振るか(振り塩)、塩水に漬ける(立て塩)かします。干物1、2枚の少量を作るのなら降り塩で構いませんでしょう。たくさんあるのでしたら塩水(立て塩)につけるほうが効率が良いと思います。「立て塩」は海水濃度の塩水のことで、日本の沿岸部での塩分濃度はだいたい3.2~3.3%ぐらいだそうです。(1リットルの水に対して塩32グラム程度)

干物に使う塩水は海水の2倍~程度の塩分濃度を使うことが多いようです。塩加減の好みは人によりだいぶ異なります。何度かやって勘を育てるしかありません。魚種や鮮度によっても使い分けるのが職人たちの技でもあります。

振り塩は塩焼きの時と同じように少し高い位置から塩がのどぐろに対して均一にかかるように振ります。湿った塩や手ではうまくいきません。振り塩をしたら2、30分間は笊などに置いてから干します。塩水の場合も2~30分漬けてから拭いて干します。

半夜干しや一夜干しは塩を控えめにする方が多いようです。日持ちはしませんが、のどぐろの持ち味を活かした良い方法です。ご自身でのどぐろ一夜干し、ぜひ作って食べてみてください。まさに至福のお味請け合います。

のどぐろ干物・一夜干し【干し方】

干物は風通しの良い日陰で干すのが決まりです。網や笊の上に寝かせて干すよりも、洗濯物干し用のピンチハンガーなどを使って吊るすほうが水の切れはよいです。また裏返す手間もありません。のどぐろが丸まらないように添え串を打ったり、洗濯ばさみ2か処以上に使うなど工夫してください。笊や網の上で干すときは傾斜をつけると水キレを促します。乾き具合を確認し、ときどき裏返します。

天日干しは暑い日に陽を当てすぎると表面が黄色く脂焼けになることがあります。脂焼けは見た目も味もよくありません。

干しはじめてしばらくして(半日ぐらい)、身のほうに軽く指を押すと、表面に指紋がかすかにつく程度のができたら生干しの状態となります。生干しまでの時間はのどぐろ自体の状態や干す環境により一概に言えませんが、おおよそ半日から終日といったところでしょうか。指をあてて確認しながら様子を見ましょう。

一夜干しは先ほども申しましたように天日は利用しませんから、室内でもできます。窓際やベランダに吊るして生の風を当てるのが良いのですが、扇風機やサーキュレーターで弱い風を送ることでも出来ます。開いたのどぐろに塩を振り、ざるの上に寝かせて冷蔵庫に入れておくだけでも、半夜干しや一夜干しになります。

のどぐろ一夜干し【脱水シートでつくる】

脱水シート(商品名『ピチットシート』)を使えば手軽に干物ができます。のどぐろに振り塩をし(または塩水)2~30分経ったら軽く拭いてピチットシートで包むだけです。冷蔵庫で一晩おけば一夜干しの出来上がりというお手軽さです。のどぐろとピチットシートは密着させてください。
ピチットシートは水分や魚の臭みなどを吸い取ってくれますが、脂が抜けることはありません。薄塩でも水分が抜けますから、のどぐろの一夜干しにはうってつけのすぐれものです。

のどぐろ【一夜干し・干物】焼き方

干物は生の魚より火の通りがいいので焼き過ぎに注意し、また焦がしたりしないように気をつけてください。

炭火で強火の遠火、これが焼き魚の昔からののセオリーとなっていますが、家庭ではなかなか叶いません。それでもできれば焼き網に載せて焼くようにしたいところです。焼き網はあらかじめ焼いておきます。皮がくっつきませんし、手早く焼くことにもつながります。

昔は「海の魚は身から、川の魚は皮から焼く」という教えがありました。川魚は皮の側に臭みがあるからというわけだったのですが、今はあまり言わなくなりました。料理屋でも炭火で焼く店は少なくなり、グリラーが普及して微妙なことや高度な技術は適さなくなってきています。(「海腹川背」という真逆の言葉があります。これは焼き方ではなく盛り付けの際の魚の向きのことです。食べ手の側に川魚は背の側を向けるということです。)

板前に訊くと、先に皮のほうを焼いて身の側は後という人が多いですね。盛り付けの時に上になる側を後から焼くという意見も多い。これは皮側を上にすることが多いようなので、皮側は後ということですね。反対側をしっかり焼いて上になる側は焦げ付きを少なく見栄えを良くしたいという目的からのようです。家庭の両面焼きグリルなどではあまり意味のないおはなしではありますが。

塩がきついのどぐろ干物の場合は日本酒を振りかけて塩出しをして焼くとよろしいでしょう。ふつうに焼く場合でも仕上げの少し前に日本酒をスプレーして焼き上げ、風味づけとします。酒がかかると焦げやすくなりますから手早く仕上げてください。

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