新鮮で上等な魚は塩一味(いちみ)が最も贅沢な一品といわれます。
のどぐろに塩を当てて焼くだけの単純な調理法とおもわれがちですが、単純がゆえに難しさがあります。下ごしらえも大事ですし、塩加減、焼き加減如何でおいしさに大きな影響がでます。焼き方にもコツがあります。
のどぐろ塩焼き 作り方
のどぐろが大きいサイズなら、2枚おろし*や3枚おろし**あるいは切身にしますが、ここではのどぐろ1本の姿のまま塩焼きにするという前提でお話しします。
* 2枚おろし:魚の頭を落として内臓を取りだし、水で洗って拭きとる。中骨のついている身とついていない身の2枚に切り離す。
**3枚おろし:上記2枚おろしの中骨のついている身から中骨を切り離すと、中骨なしの身2枚と中骨で計3枚となる。昔から「切る」が忌み言葉であるところから「おろす」という言葉が使われています。「さばく」でもよいと思いますが、「おろす」には決まった手順に則って行うというニュアンスがあるように思います。
のどぐろ塩焼き【下ごしらえ】
どのような状態ののどぐろを入手したかで作業は異なりますが、基本的には全体を水洗いしてからウロコ、鰓(エラ)、内臓を取り除いて、再び水洗いということになります。鮮度を保つためには手早い作業が必要となります。
ウロコは尾から頭に向かって取っていきます。ウロコ引きや出刃包丁を使いますが、のどぐろの身に傷をつけないよう丁寧におこないます。
エラを取り腹に隠し包丁をし、そこから内臓を取り出します。その後エラのまわりから腹の中まで流水できれいに流します。歯ブラシなどを使うとやりやすいでしょう。
水洗いの後は布巾やキッチンペーパーなどで水気をていねいに拭きとります。
のどぐろ塩焼きの塩加減
のどぐろ塩焼きの旨さは鮮度がいちばんですが、塩加減も大切です。塩焼きは魚の重さの2~3%の塩が適量といわれています。近ごろは減塩ばやりですから甘塩(薄塩)もよろしいでしょうが、のどぐろの旨さを引き出すための最小限の塩は必要となります。
新鮮なのどぐろは塩のまわりが早く、小さいサイズのものも比較的塩のまわりが早いものです。大きめのサイズでしたら焼く1時間ほど前に振り塩をしておいたほうがよろしいでしょう。一晩冷蔵庫で寝かすという人もいます。一晩置くときは布巾やキッチンペーパーなどで包んでからラップフィルムでさらに包んでください。
塩はまんべんなく全体にいきわたるように振ります。(昔の)板前は、1尺(30cmぐらい)上から塩をふる「尺塩(しゃくじお)」というやり方で塩を振ります。つかんだ塩を手のひら側を上向きにし、指のすきまを加減してまんべんなく塩をあてます。(”振る”という語を嫌い”あてる”といいます。「あて塩」)「針打ち」をしてから塩を振るという方法もありますが、のどぐろのようなやわらかい魚では技術が要ります。紹介だけしておきます。複数の金串で魚の皮を刺してから塩を振るのです。輪切りにした大根に金串数本を刺し、串先を数センチ飛び出させます。生け花のの剣山ようなイメージ。これを魚に刺して塩がまんべんなく浸透する効果を狙うというものです。塩焼きの際に、皮の一部が身から離れ脹らんで、そこが焦げたり破けたりすることがあります(焼ぶくれ)。針打ちはこれを防ぐことにもなります。
のどぐろ塩焼き 焼き方
のどぐろを姿のまま焼くのですから、串を打ってかたちを整え格好よく器に盛りたいところですが、家庭ではそうもいきません。昔の焼き魚は下火の炭火でしたから串打ちは必須でした。通常の串打ちは金串2本を使います。踊り串といわれる打ち方で水面から跳ね上がったような姿に1本の串(親串)を打ち、もう1本(沿え串)で安定させます。盛った時に表面(上)になる側には串が見えないように打ちます。
板前の仕事の場合は串を打ったら、化粧塩をします。ヒレや尾を広げて塩を摺り込み、焦がさずに焼き上がりを際立たせ、見栄えを良くします。家庭では必要のないことでしょう。バーベキューセットで炭火焼などというときは、化粧塩がうけるかもしれません。家庭での のどぐろ塩焼きでもヒレや尾を焦がさないため、アルミフォイルを巻くなどの工夫はできます。
のどぐろに火が通りやすくするためには飾り包丁は入れておいたほうが良いのですが、丁寧に扱いましょう。上になる側に一文字あるいはX状に切り込みを入れます。裏側には背びれに沿って一筋、あるいは斜めに1、2か所切れ込みを入れます。返す時や取り出すとき身をくずすことがないよう注意をしてください。
魚焼は”強火の遠火”と昔から言われますが、家庭ではなかなか望めません。家庭での魚焼はガスの魚焼グリルが多いようです。網にのどぐろの皮がくっついてしまうのを防ぐために油か酢を塗っておくとか、あらかじめグリル内を温めておくなど…ご存知のことでしょう。
「強火の遠火」って…
昔から焼き魚は「強火の遠火」といわれてきました。備長炭のような火力の強い炭火で焼く場合は、熱源から距離を取りませんと焦げてしまいます。このような事情もそのいわれの一つだと思います。
ガス火は火の調節ができます。しかし弱火の近火では、焼きあがるのに時間がかかりパサついた焼き上がりとなってしまいます。折角ののどぐろをぱさつかせてはもったいない。かといって強火の近火では芯に火が通る前に焦がしてしまいます。
「塩焼きは強火の遠火」は今でも理にかなった焼き方です。家庭でも、鉄弓(鉄灸・てっきゅう)という鉄製の枠を使い、ガスコンロで遠火が実現できます。鉄弓(鉄灸)がなければコンロを挟むように耐火レンガを積んで、串を打った魚を左右のレンガの上に渡して焼くという方法もあります。
グリルが片面の場合はのどぐろを返す必要があります。最初は盛った時に裏になる側をしっかり焼きましょう。(→昔は表から?)
のどぐろから脂が落ちるようになってきたらだいぶ火が通ってきたことになります。返す回数はできるだけ少なく、できれば1回だけにします。返したら表側を焼きあげて仕上げます。
食べる人から見て魚(のどぐろ)の頭を左側、腹を手前に置きます。左上位という日本の伝統から(諸説あり)、通常はこれが表側です。、
折角の のどぐろ塩焼き、しかも贅沢この上ない1本の姿焼きです。きれいに焼き上がった姿を皿に盛り付けたいものです。